傑物の至言-32 Jim Jarmush /ジム・ジャームッシュ 

僕は、自分が見たい映画を作ると決めてきた

 

──あなたは昔からずっとハリウッドのルールに背いてきていますね。 
 「ハリウッドのルール本というものがあるのだとしたら、僕は読んだことがない。
もし手元に回ってきたら、開く前に焼いてしまうだろう。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のときから、僕は、自分が見たい映画を作ると決めてきた。ほかの人はどうせ見ないだろうとわかっていながら作るのさ。
 世界の観客に見てもらうつもりで映画を作るなら、ハリウッドに行って、ターゲット層だのマーケティングだのに関する仕事をやればいい。そういう映画があってもいいし、僕はそういう映画を嫌ってもいない。
 だが、そういう映画を作るのは、僕の仕事ではない。僕にはできない。
僕は、僕自身と、僕とコラボしてくれる人たちが見たいと思う映画を作るだけだ。
 それをやるにあたって、僕は自分の直感に頼る。僕の直感が、ほかの人より優っているとは言っているわけじゃない。劣っているのかもしれない。でも、僕は、自分が直感的な人間だとわかっている。そして、その部分を大切に守っていこうとしているだけなのさ」

映画『Paterson(パターソン)』公開時インタビュー(Text by Yuki Saruwatari)https://courrier.jp/news/archives/94977/より引用

 

 

 存在そのものがカッコいい映画監督。 Jim Jarmush(ジム・ジャームッシュ) 自身がロックスターの様だ。軽薄なイケメンじゃなく、登場時から存在感、色気があった。

 

John Lurie(ジョン・ルーリー)サックス・プレイヤー

Tom Waits(トム・ウエイツ )ギタリスト、シンガー・ソング・ライター

などミュージシャンを役者起用したり、

1995年『Dead Man (デッド・マン)』Johnny Deppジョニー・デップ主役)ではNeil Young(ニール・ヤング)が映画を見ながら即興で弾いたギターがサウンド・トラックで流れる。

そのお返しとばかりに、

1997年『Year of the Horse(イヤー・オブ・・ザ・ホース)』Neil Young(ニール・ヤング)Crazy Horseのライブ・ツァーを撮った。

★  Neil Young(ニール・ヤング)は「傑物の至言-28」で紹介した傑物

2016年の『Gimme Danger(ギミー・デンジャー)』Iggy Pop(イギー・ポップ)のライブ・ツァーを撮った作品。

というように、実際に音楽とのリレイションも中途半端ない。

 音楽で例えるとスタートなロックンロールよりも、オフ・ビート、ダウンでブルーズにジャージィさが見え隠れする。イギーはロックそのものだが。

 

1981年公開の『Permanent Vacation パーマネント・バケーション』大学の卒業制作で作った映画でデビュー。この作品作から既にその独特なトーンは全開。主役はJohn Lurie(ジョン・ルーリー)

1984年 『Stranger Than Paradise(ストレンジャー・ザン・パラダイス)』John Lurie(ジョン・ルーリー)主役。

1986年 『Down by Law(ダウン・バイ・ロー)』 Tom Waits(トム・ウエイツ )John Lurie(ジョン・ルーリー)主役。

 このデビューからの3作は特にインディペンデントでオフなトーンで強烈な皮肉を効かせ一気に有名監督になった。

 真似するフォロワーは多いがほとんど単なるインディーズに終わってしまうのがオチ。

 

 いつものようにこの人の映画はすべて傑作だが、この後テーマや撮り方といった外面的にあっちこっちに飛んでみせるので、一作だけしか観ない人はJim Jarmush(ジム・ジャームッシュ)を捉えきれないだろう。

1992年『Night on Earth(ナイト・オン・ザ・プラネット)』はコメディとしても傑作過ぎて涙が出る。

 その後コンスタントに映画を撮り続けるも、説明台詞、クローズアップで説明されることに慣れ、物語、説明、解答を求めようとする人にはお勧め出来ない。 

 

2013年『Only Lovers Left Alive(オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ)』思いっ切り振り切った様に華麗で耽美な世界に連れていかれた大傑作を撮った次には

2016年『Paterson(パターソン)』で静かな詩人の生活に寄り添った。因みに1989年『Mystery Train (ミステリー・トレイン)』工藤夕貴と共に起用した永瀬正敏が久々に起用された。

 

 Jim Jarmush(ジム・ジャームッシュ)は上下左右どこにでも焦点を決めたら、その方向へ突き進む。そして誰にも真似出来ない映画を造ってしまう。

 

「酒が呑めないと人生の半分を損している」などの戯言を言う輩がいるが、

「Jim Jarmushの映画を知らないと人生の何割か損をしている」私ならこう言おう。

Jim Jarmush /ジム・ジャームッシュ

1953/1/22- 現在66

 映画監督、脚本家、役者、ミュージシャン

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『けだし名言』

 

ただの名言、格言、金言じゃなく、本質に迫る言葉が『至言』。

ただの有名人、著名人じゃなく、怪物級、規格外の人物が『傑物』。

 

その『傑物』の『至言』が放たれ、凡人にも何かが触発される。

泡立ち、鳥肌が立つ瞬間。そこから目を逸らすのを止めよう。

(記*波尾哲)