傑物の至言-1 橋本治

1969年とは、それ以前の時代を引っ張って来た「思想」が終焉を迎える年なのだ

"1969年とは、それ以前の時代を引っ張って来た「思想」が終焉を迎える年なのだ。だからこそ騒がしく、その後には空疎なる「豊かさ」しかもたらさない"

1999年『シリーズ20世紀の記憶』毎日新聞社

 天才は先のことが視える。それを正に実証する発言。平成から令和に元号が変わったとて、西暦は2019年中のことである。

1969(昭和44)年はそもそもの土台であった共産主義は徐々に背後に隠れ、
『自由』を合言葉にしたヒッピー、フラワー、サイケ文化が支配していた。
ピースサイン、長髪、ジーンズ。
1/20 ニクソンがアメリカ大統領に就任。
4/7、連続射殺魔の永山則夫が逮捕。
6月、泥沼のベトナムから米軍が段階的に撤退開始。
6/28、アメリカでストーンウォールの反乱が起きる。
7/2、ブライアン・ジョーンズ(ローリング・ストーンズのオリジナル・メンバー)死去。
8/9、女優のシャロン・テートがカルト教団信者により殺害される。
8/15-17『ウッドストック・フェスティバル』が開催された。時代の象徴的イベント。40万人もの人が集まりやむなくフリーコンサートになる。

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9/3ホー・チ・ミン(ベトナム民主共和国の初代国家主席)が死去。
10/5、日本では『サザエさん』が放送開始。
10/21『路上(ON THE ROAD)』のジャック・ケルアック死去。
まさに時代の空気を作った「ビートニク」の代表的作家であり、
ヒッピー達のバイブル的小説が『路上(ON THE ROAD)』。
12/6にオルタモントでのフリーコンサートでローリング・ストーンズが演奏中に警備のヘルス・エンジェルスのメンバーが観客を殺害してしまった。
この模様は後に映画『ギミー・シェルター』の中にも収録されている。

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1970/3/14『日本万国博覧会』が開催され日本中浮かれる中、
3/31『日航機よど号ハイジャック事件』が起き、
4/10、『ビートルズが解散』。
9/18、前年の『ウッドストック・フェスティバル』のトリを飾ったジミ・ヘンドリックスが死去、
10/4にはジャニス・ジョプリンが死去。
11/25 サックスプレイヤーのアルバート・アイラーが死去、
  三島由紀夫は自衛隊市ヶ谷駐屯地にて自決。

丁度50年前の狂騒。それが今や「過去」のものになったとて「思想」は商品とは違う。
(「思想」も商品だと異論を唱える声さえ聞こえそうだが)
1969年当時、人間は何を思い何を目指していたのか、そんなことを考えてみることも必要なことじゃないか。

東京大学在学中に「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」のコピーで制作した駒場祭ポスターで注目される。
1977年桃尻娘』が新人賞受賞、ベストセラーとなった。この時まだ29歳。
テレビドラマ化、映画も3本のシリーズ化された。

2002年、小林秀雄賞
2018年、野間文芸賞
ほか受賞歴を重ねるほどに小説、戯曲、古典の言語訳、イラスト、評論、エッセイを発表し続けたが、2019年鬼籍に入られた。

ユリイカ 2019年5月臨時増刊号 総特集◎橋本治

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橋本治
小説家、評論家
1948/3/25-2019/1/29 (享年70歳)

(記*波尾哲)

★こんなに有難い至言に遭遇させて頂きながらも、敬称略で書かせて頂くことをご本人、関係者にお詫び致します。

『けだし名言』
ただの名言、格言、金言じゃなく、本質に迫る言葉が『至言』。
ただの有名人、著名人じゃなく、怪物級、規格外の人物が『傑物』。
その『傑物』の『至言』が放たれた奥底に迫りたい。